yenoniwa’s blog

心に残った表現を書き留めています

第七頁 一筋の糸

本を開いては、求めているものがそこにない苦しさで、本棚に戻す時間が長かった。あれほど様々なことを語りかけてきたはずの言葉が、一番語りかけてほしい時に黙していた。唱えても唱えても、護身の魔法の効力は、するりと身から離れてしまう。何を支えに苦…

第六頁 

若々しさとは、熱した鉄のようなもので、触れたら火傷をするほど輝いている。その鉄を鍛えていく時間が私には突然訪れた。焼かれるような痛みを常に伴ったけれども、若さの熱を冷ます以外の道がなかった。それが「うつ」という病気の時間だったと思う。 今、…

第五頁 月夜の晩に

サン=テグジュペリの『夜間飛行』を数度目の挑戦でようやく読み終えた。 なんですか?!この文章は……好きな表現が書ききれないくらいある。というより、全ての文が力強く緻密なうねりの中にあって、あの小説からある一文や一表現を掬い上げることが難しい。…

第四頁 射す光、照らす光

体調を崩して、大学を半年休学することにした。切望していた穏やかな日々だ。 冷静になってみれば、これまでの何もかもが地続きだった。病院などで「原因と思われることはありますか?」と問われても、正直なところ問題が絡まり合いすぎてよく分からない。そ…

第三頁 つまりはこの重さ

私はどう生きるのか?何を成したいのか? こういった考え事に取り憑かれた時、私はどうすればいいのだろうか。奴らは、始め別の考え事の形をとって頭に忍びこみ、狡猾に蟻地獄を作って待ち構えている。今期のレポートのこと、卒論のこと、院進のこと、就職の…

第二頁 時の感触

静かな、何事もない、富み栄えた日曜日であった。それというのに、清顕は依然、水を充たした革袋のようなこの世界の底に小さな穴があいていて、そこから一滴一滴「時」のしたたり落ちてゆく音を聴くように思った。 *1 この文章を読んだ時、したたり落ちた「…

第一頁 紫色の火花

彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかった。が、この紫色の火花だけは、──凄まじい空中の火花だけは命と取り換えてもつかまえたかった。*1 私が芥川龍之介の作品を読むようになったのは、高校生の頃、祖父の本棚にあった作品集で『侏儒の言葉』を…